燃料転換効果
省エネルギー率 |
7% |
CO2排出削減量 |
19.9t |
原油換算燃料削減量 |
2.4kL |
武甲酒造株式会社(柳田総本店)は、埼玉県秩父市にある創業宝暦三年(1753年)の老舗醸造元。築204年の店舗は国指定登録有形文化財。秩父の歴史と共に勤しんできた。「平成の名水百選」に選ばれた敷地内に湧き出る天然水「武甲山伏流水」を仕込水に、地元に愛される酒を造り続けている。定番の日本酒や焼酎、リキュールだけでなく、麹を使った食品や甘酒、地元の素材を使ったジャムなど幅広い商品を手掛ける。そのすべてを手作りしており、昔ながらの製法を守りつつ、新商品開発にも注力している。近年増加している外国人観光客に対応するために秩父市で初めてのタックスフリーショップになり、伝統を守りながら、新しいものも積極的に取り入れるバランス感覚を大事にしている。秩父路の銘酒として知られ、数多くの鑑評会において幾多の受賞の栄に輝いている。主要銘柄は『武甲正宗』。
阪神淡路大震災の教訓を踏まえて
1995年1月17日に発生した阪神淡路大震災。社長の友人が勤務する灘の酒造メーカーに安否の連絡をすると「仕込み水を地元の方々に供給している」という話をされた。当時は社長自身も地元消防団で活動しており、火災発生時は水利の確保が第一、水道等ライフラインが止まった時、率先して地域住民への飲み水の提供が必要と考えていたので平成9年、秩父市と防災指定井戸の協定を結んだ。それ以来、酒造メーカーが持っている水や米などの原材料が、災害時の緊急支援物資として有効であることに気が付き、災害時に地域のために何ができるか考えるようになった。「地元と共に歴史を刻んできた造り酒屋として、災害時に地域貢献できる体制を整えることが企業の社会的責任であると考えています。」
(長谷川社長)
敷地内に湧き出る仕込み水。
遠方から汲みに来る人もいる
次はLPガスに
同社では従来、酒造りに使用する熱源として重油ボイラーを使用していた。地震が起きた時に気がかりだったのが地下埋設の重油タンクだ。もし大きな地震が起きれば地下の重油タンクが破損し重油が漏えいする可能性がある。地下の汚染は地下水を使う酒蔵とって一番怖いことであり、友人の酒造メーカーに話を聞いたり、県内の食品メーカーを視察したりと検討を重ねた。同社は都市ガスの供給エリア内に位置しており、都市ガスにするという選択肢もあったものの、BCP対策の観点から災害時の供給安定性を考慮した結果、LPガスの導入を採用した。
供給設備には災害対応バルクを導入し、炊き出しなどに使えるようにした。しかし、同社の取組みはそれだけに留まらない。災害時の一時的な供給途絶時にも安心して使えるよう、ガス会社の提案を上回る3トンのバルクを設置。またバルクローリー用ヤードを整備し、バルクのすぐ前で安全に煮炊きができるような開放スペースを確保。さらに、平成26年の記録的な大雪による経験を踏まえて、バルクに直接雪がかからないよう専用の建屋を設置するなど、非常時に地域の供給拠点として機能するために何が必要ということを徹底的に考え、設備投資を行っていった。なお今後については、電源確保としてLPガス小型発電機の導入を検討している。
バルク前のローリーヤード。
災害時に煮炊きができるよう
十分なスペースが取られている。
雪害対策として設置された建屋
更新されたLPガスボイラー
日常のメンテナンスコストも低減
従来の重油ボイラーは2台、酒米を蒸かす1ton/hのものと、日本酒の瓶詰時に使う750kg/hのもの、日常の点検や管理などを個別に行わなければならず、重油は燃焼する時にススも出るし、安全装置が付いているとはいえ、地下タンクから待ち受けタンクへ重油を移すというリスクも大きかった。今回の更新では800kg/hのLPガスボイラー2台に入れ替えた。運転状況によって2台をインバーター制御する事で、必要な時に必要なだけのエネルギーを使えるようになった。またLPガス化によりボイラーが煤煙発生施設及び危険物取扱所の対象外となり、行政対応の手間が簡素化された。これまでのところ大きなトラブルもなく、メンテナンスの手間が省けていることを長谷川社長は評価している。
「LPガスによる地域貢献」を合言葉に
同社は従業員全員が地元秩父在住者で、また製造した日本酒の95%が秩父地域内で消費されているという、まさに地域型密着企業である。同社では、そうした企業の社会的責任として災害対応時の供給拠点としての機能強化を図っていくという目的が明確に意識されており、そこにLPガスが持つ総合的な災害対応能力の高さが適合したことによって、今回の導入に至った。
各地の自治体では民間の一時避難所が不足している状況にある。LPガスの導入をきっかけに民間企業の事業所を避難所として整備することはその対策として有効であり、また企業の社会的責任という観点や、企業イメージの向上という観点からも有力な方策である。この事例と同様に「地域に生きる」LPガス事業者として、経済的なメリットだけではなく、地域社会への貢献という観点からLPガスの訴求を行っていくことも、重要なポイントの一つであろう。