瀬戸内の温暖な気候に恵まれた広島県東部に位置する港町、三原市の沖合にある佐木島。海に囲まれ、穏やかな自然と共存する豊かな島であるこの佐木島に、(株)広島アグリネットファームは、ミニトマト栽培のために約3haの土地にハウスを造り、ガスヒートポンプ(GHP)を導入した栽培に取り組んでいる。
広島県で初のスーパーマーケットとして広島市を中心に店舗を展開している(株)フレスタホールディングスグループでは、平成28年8月に農業事業参入のための農業法人である(株)広島アグリネットファームを起ち上げた。同社を通じて、養液栽培による高度環境制御栽培システムを導入したミニトマト栽培用ハウスを建設し、生産されたミニトマトを県内外の食品スーパーのフレスタ店舗及び関連企業にて販売している。
同社で栽培するミニトマトは、中玉種で糖度の高い品種「フルティカ種」を選定し、養液栽培と特殊なフィルムを使って行う「アイメック農法」にて栽培している。このとことん甘さ・美味しさを追及したミニトマトは「スイートルビー」と名付けた。
GHP室外機
食品スーパーのフレスタ
フィルム栽培
同社では、平成29年に2棟のハウスを建設した当初、夏期に冷房での温度調整も可能なEHP(電気式ヒートポンプエアコン)の導入を検討していた。しかし、電力の出力増強のため受変電設備の設置が不可欠となり、イニシャルコストがかかるため、導入に踏み切れずにいた。そこで、その他の熱源を検討し、離島という立地からA重油や灯油の安定調達では課題があったため、ガス焚き加温機を導入することとした。
ガス焚き加温機を導入し無事に収穫を終えた翌年には、更に2棟のハウスを建設することとなったが、新たに「燃料コストを下げたい」という課題も出てきた。そのような状況下で燃料供給会社より園芸施設用GHP(ガスヒートポンプ)を紹介され、製造元である(株)ヤンマーに詳細を問合せてGHPによる温度管理に関して説明を受け、新たに建設する2棟のハウスには(株)ヤンマー製のGHP(30馬力×4台)の導入を決めた。
光合成促進機とGHP室内機
GHP室外機とガス供給設備
GHPを導入した効果は大きかった。当初の目標であった燃料コスト削減という観点では、従来のガス焚き加温機と比較して需要期で約30%の燃料コストを削減できた。また、削減によって得られた収益を元に燃料消費拡大し、更なるハウス内の温度上昇が可能となった。GHP導入と併せてLPガスを燃料とする光合成促進機も導入しており、CO2濃度を400ppmにて維持することで、ミニトマトの成熟に寄与しているという。なお、これらの機器はすべてLPガスのボンベ庫から供給ラインをひいた。
新機器の導入にあたっては、(株)ヤンマーの「24時間遠隔監視システム」も導入し、大阪市の遠隔監視センターで機器の運転状況を常に監視できる体制を整えた。実際にハウス建設の直後、機器を稼働させていない時には、状況等確認のため、(株)ヤンマー担当者より連絡が入り、バックアップ体制が確保されていることを改めて感じた。
(株)アグリネットファーム
社員の滝田さん
ハウスには高度環境制御栽培システムも導入した。設定すればオートで動くGHPだが、IoTを活用して温度、湿度、照度、CO2のデータを記録し役立てている。このデータ管理に基づき、日照時間や水分・養分の量、湿度、温度など苗の成長に必要な条件を調整。糖度の高い高付加価値なミニトマトを栽培している。
ハウスミニトマトづくりについて、同社社員である滝田さんは、「現在1日に約500kg〜800kgのミニトマトを出荷しているが、主要卸先である食品スーパーのフレスタからは、『もっと出荷量を増やして欲しい』との要望が来ている。増産は勿論だが、より甘いミニトマトを提供するために、安定的にペットボトルの蓋くらいの径のミニトマトを収穫出来るよう、質にもこだわって栽培していきたい」という。
ゆくゆくはネット販売や輸出なども視野に入れている同社だが、将来的には露地栽培も取入れ、農業体験型サービスなど新規事業も検討する。同社では、島の有望な観光資源と農業を融合させ、佐木島全体の活性化に繋がる「リゾートファーム」を目指し、(株)広島アグリネットファームは今後も美味しいミニトマトを届けていく。
株式会社広島アグリネットファーム
本社:広島県広島市安佐南区長束6丁目8番46号
三原佐木島ファーム:広島県三原市鷺浦町向田野浦2543
代表者 : 波木 明成
ハウス面積 : 9,504平方メートル (GHP導入面積2,592平方メートル)
(注)本記事については、日本農民新聞2019年2月15日号(3218号)に掲載した記事を再構成しております。記載情報については掲載当時のものです。