愛知県大府市は名古屋市の南部、知多半島の北端に位置する自動車産業が盛んな地であり、愛知用水を利用した近郊農業も行われている。また、市南部には健康・医療・福祉・介護関連の機関が集中するウェルネスバレーがあり、健康長寿の一大拠点の形成を目指している。
近年、学校施設においては空調機の設置が進められており、全国的にみても普通教室の空調機の普及率は9割を超えている。しかし、災害発生時において避難所に指定される体育館については多くの空調設備が未整備なままとなっている。
令和2年、大府市では市内中学校4校の体育館、柔剣道場、サブアリーナにLPガス仕様の電源自立型GHPを設置した。
近年、さまざまな地域で発生している豪雨被害やそれに伴う河川の氾濫が頻発するなか、大府市では、過去には平成12年に東海豪雨を経験し、自治体としての避難所の環境整備は重要な課題であった。
現在地域の避難所として指定されている公立小中学校の体育館は、避難時には夏の暑さや冬の寒さの環境面で課題があり、通年で使用する児童・生徒の熱中症予防対策としても対応が必要であった。
この度、空調機の設置は急務との考えで、令和元年度より中学校4校、小学校9校への空調機設置の検討を開始した。
市内の東西南北にバランスよく配置している中学校の体育館はスペースも広く、柔剣道場やサブアリーナも併設されており、避難所機能が高いことから、先に中学校から着手した。
災害バルク貯槽タンク(LPガス)
大府市教育委員会によると、今回の導入にあたりエネルギー選定の決め手となったのは、LPガスが災害に強い動力源とされている点だという。
LPガスは個別供給体制で、体育館近くに燃料を保管していれば、万が一においても燃料供給が途絶える心配がない。設置したLPガス災害バルク貯槽タンクは、タンク半分の量のLPガスで、空調機を3日間使用できる。加えて大府市内にも複数のLPガス事業者が存在しているため、追加供給を受けることも可能だ。
今回導入したGHPは、自立型電源機能があり、停電時にも空調機の運転開始をできるだけでなく、この電源から照明や非常用コンセントに電力を供給することが可能になり、さらに避難所機能を向上させることができた。
体育館への空調機導入は、経済産業省補助金「石油ガス災害バルク等の導入事業費補助金」を活用した。
この補助金活用のおかげで整備費用のうち、補助対象経費の1/2を補助金でまかなうことができ、コストの比較でも他のエネルギーの場合と比較し優位に立ったという。
幸いなことに、空調機導入後に避難所として体育館を使用する場面はまだないが、現在は夏場の体育の授業や部活動、冬季の行事(卒業式など)に使用しており、利用者からの評判も上々とのことである。
今回の取材に対し、大府市教育委員会は「中学校に続き、9小学校の体育館につきましても、令和3年度に4校の体育館にLPガスを活用した空調機を設置し、残り5校は令和4年度での設置を予定しています。今後も市民の安心安全を確保できる体制を整備していきます。」と述べた。